白い部屋

あなたと宇宙を泳ぐ

20年後:ノヴォシビルスクとイルクーツクの間 - パウロ・コエーリョのE-CARDSより

拙訳

20年後:ノヴォシビルスクイルクーツクの間
2006/6/1
パウロ・コエーリョ

振動のせいで、私はまだ列車で書くことができない。私は駅で読者たちに会い、彼らと話し、彼らの目と、なんとか交わすことができたわずかな言葉から多くを学ぶ。物語を語る人もいれば、街のこと、出身地のことを話す人もいる。

彼らの1人が私に言う。:「今どこにいるか正確に知っていますか?あなたはたくさんの人たちと一緒に列車の駅にいて、まさにこの瞬間、たくさんの人たちがあなたと同じ希望や失望を心に抱く可能性が十分あります。」

「続けましょう:あなたはボールの表面の微細な点です。このボールは、別のボールの周りを回転し、その別のボールはさらに、数百万の同じようなボールと一緒に銀河の小さな隅に位置しています。」

「この銀河は宇宙と呼ばれるものの一部で、巨大な星団で満ちています。私たちが宇宙と呼ぶものがどこで始まって終わるのか、正確には誰も知らないのです。」

「それでも、旅の疲れに打ち負かされないでください。:あなたは闘い、努力をし、進展しようとします。あなたは夢を持ち、愛のために幸せになったり悲しんだりします。もしあなたが生きていなければ、何かが欠けていたでしょう。」

私は読者がその言葉をどこで見つけたのか知らないが(彼は紙切れを読んでいた)、それは私がその瞬間に必要としていた言葉だ。

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さらに2駅先では、読者が、大工と弟子たちが建材を探し求めてチー地方(このとき私たちは中国のとても近くにいた)を旅する話をしてくれた。彼らは巨大な木を見た。それは5人の男でも抱えきれないほど大きく、雲に触れるほど高い。

「この木に時間を取らないようにしよう」親方が言った。「これを切り倒すのにはたくさん時間がかかる。ボートを作ろうとすれば、その幹はとても重いので沈む。屋根の構造に使うとすれば、壁は過剰に厚くしなければならない。」

一団は旅を続ける。弟子のひとりが意見した。:

「これほど大きな木なのに何の役にも立たないなんて!」

「そうではないのだよ。」親方は言った。「木は独自のやり方で運命に従っているのだ。もし他と似ていれば、私たちはそれを切り倒していただろう。しかし、他と異なっている勇気を持っていたからこそ、その木は長い間生きて強いままでいられるのだ。」

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道士は語る。時間の始め、精神と物質は死闘をした。遂に精神が勝利した。 ーそして物質はずっと地球の中で暮らすことを余儀なくされた。

しかし、それが起きる前、彼の頭が天空にぶつかり、満点の星空がバラバラになった。

火の甲冑に身を包みまばゆく輝く女神ニウカが海から現れた。大釜の中で虹の色を煮て、星をどうにか元の位置に戻す。しかし、小さなかけらをふたつ見つけられず、天空は不完全だった。

これが愛の起源だ。:二つの魂は、お互いを探し求め常に地球を横断する。彼らが出会ったとき、空に欠けているふたつの部分が一緒に合わさることができ、そのとき、カップルは宇宙全体を理解出来る。

シベリア横断鉄道がこの長いステップを横断する時、私はこのことをずっと考える。

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信じがたいかも知れないが、多くの人々は幸福を怖れている。そんな人々にとって心地よく生きることは、習慣全体を変え、自分の存在意義を失うことを意味する。

私たちはしばしば、起きる良いことに自分は値しないと感じる。私たちは奇跡を受け入れない。なぜならば、それらを受け入れると、神に何か借りがあるように感じるからだ。その上、幸せに「慣れる」ことを怖れている。

私たちはこう考える。:「幸せの杯から飲まない方が良い。なぜなら、それがなくなったらとても不自由に思うだろうから。」

減るのを怖れて、増やすのをやめる。泣くのを怖れて、笑うのをやめる。

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列車の中で私はモロッコから来た人と出会う。その人は私に、砂漠の民が原罪をどう理解するかについてのおかしな物語を教えてくれた。

イブがエデンの園を歩いていると、蛇が近づいてきた。

「このリンゴをたべなさい。」と蛇は言った。

神に良く指導を受けていたイブはこれを拒否した。

「このリンゴを食べなさい。」蛇は強く言った。「なぜなら、あなたは夫のためにもっと美しくならなければならないからです。」

「その必要はないわ。」イブは返事した。「だって彼には私以外の女性がいないのだもの。」

蛇は笑った。「当然いますよ。」

イブは蛇を信じていなかったので、蛇はイブを丘の頂上に連れて行った。そこには井戸があった。

「女性はこの洞窟の中です。アダムが彼女をそこに隠したのだ。」

イブはかがみ込み、井戸の水に反射した美しい女性を見た。
イブはすぐに、蛇がくれたリンゴを食べた。

この同じモロッコ人の民族によれば、井戸の反射が自分自身だと認識した人は皆、もはや自分自身を怖れなくなり、楽園に戻るという。

原文:http://paulocoelhoblog.com/2006/06/01/twenty-years-later-between-novosibirsk-and-irkutsk/