白い部屋

あなたと宇宙を泳ぐ

今週の人物:ホルヘ・ルイス・ボルヘス - パウロ・コエーリョのE-CARDSより

拙訳

今週の人物:ホルヘ・ルイス・ボルヘス
2010/4/21
パウロ・コエーリョ

ホルヘ・ルイス・ボルヘス(1899年〜1986年)はアルゼンチンの作家、随筆家、詩人でブエノス・アイレスで生まれた。
私にとって彼は20世紀最高の作家でもあった。以下のテキストで、彼は全宇宙が収束する点を説明している。

階段の後方で、右のほうに、耐え難いほどに輝く、小さな玉虫色の球体を見た。最初はそれが回転していると思った。;
その後、その動きは、目もくらむような世界が結びついて作り出す幻想だとわかった。「アリフ」の直径はおそらく1インチそこそこだが、減ることなく実際の全宇宙がそこにあった。
各々のもの(例を挙げれば鏡の顔)は無限だった。私は宇宙のすべての角度からそれをはっきりと見たのだから。
豊かな海を見た。;
夜明けと日没を見た。;
アメリカの群衆を見た。;
黒いピラミッドの中央にある銀色のクモの巣を見た。;
裂けた迷宮を見た(それはロンドンだった);
鏡を見るときのように、果てしない目が自らを見つめるのを、間近に見た。;
地球上のすべての鏡を見たが、私を映しているものはなかった。;
ソレル通りの裏庭で、30年前にフライ・ベントスの家の玄関で見たのと同じタイルを見た。;
ぶどうの房、雪、タバコ、金属の鉱脈、蒸気を見た。;
赤道付近の凸状の砂漠と砂の一粒一粒を見た。;
インバネスの忘れられない女性を見た;
彼女のもつれた髪と背の高い姿を見た。;
彼女の胸の癌を見た。;
歩道の上の以前に木があったところが、焼けて泥の輪になっているのを見た。;
アドロークにある夏の家と、フィレモン・ホーランドによる「プリニウス」の英訳の初版本を見た。そしてあらゆるページのあらゆる文字を同時に見た(少年のころは、閉じた本の中の文字が夜の間にごちゃまぜになったりなくなったりしないということに驚いたものだ)。;
ベンガルのバラ色を映し出すようなケレタロの夕日を見た。;
誰もいない自分のベッドルームを見た。;
アルクマールのクロゼットの中で、ふたつの鏡に挟まれた地球儀が無限に増殖しているのを見た。;
カスピ海の海岸で、たてがみをなびかせる夜明けの馬を見た。;
手の骨の繊細な構造を見た。;
絵はがきを出す戦闘の生き残りを見た。;
ミルザープルのショーケースで、カードゲームをするスペイン人の一群を見た。;
温室の床に、斜めにのびたシダの影を見た。;
虎、ピストン、バイソン、潮、そして軍隊を見た。;
地球上のすべての蟻を見た。;
ペルシャアストロラーベを見た。;
ベアトリス(訳注:ホルヘスの著書「エル・アレフ」の登場人物)がカルロス・アルゼンティーノに宛てて書いた、信じられない、猥褻な、詳細な手紙を、書き物机の引き出しの中に見た(筆跡に私は身震いした)。;
チャカリタ墓地で、私が崇拝するモニュメントを見た。;
かつてはベアトリス・ヴィテルボであることを楽しんでいた、腐敗した塵と骨を見た。;
私の暗い血液の循環を見た。;
愛の結合と死の修正を見た。;
あらゆる点と角度から「アリフ」を見た。「アリフ」の中に地球を見た。地球の中に「アリフ」を見、「アリフ」の中に地球を見た。;
自分の顔と自分のはらわたを見た。;
あなたの顔を見た。;
そしてめまいを覚えて泣いた。
あの秘密の、推測された物体を私の目は見ていたゆえに。
誰もが知る名を持つのに、誰も見たことがない「計り知れない宇宙」を。;

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