白い部屋

あなたと宇宙を泳ぐ

20年後:ふたりの賢者 - パウロ・コエーリョのE-CARDSより

拙訳

20年後:ふたりの賢者 
2006/5/19
パウロ・コエーリョ

昔々、シディ・メーレズという賢者がいた。
彼は住んでいる場所にとても悩まされていた。そこは地中海の美しい街で、男女が堕落した生活をして暮らしており、お金の価値だけが重んじられていました。
メーレズは聖者でもあり、奇跡を行うことができたので、チュニス(訳注:チュニジアの首都)を彼の長いスカーフに包み、海に投げ込むことに決めた。

建物は倒れ始め、地面は隆起し、住人たちは自らが死の淵に放り出されているのがわかって慌て始めた。
絶望の中、彼らはメーレズの友人に助けを求めることに決めた。シディ・ベン・アロウズという名だった。
ベン・アロウズは、厳格な聖者に破壊を中断してもらえるよう何とか説得した。だが、それ以降ずっと、チュニスの通りはデコボコでガタガタだった。

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1986年のサンチアゴへの最初の旅の20周年を祝うため、この巡礼の風に運ばれ、私はアフリカの街のバザールを散策する。
私は、アダム・ファティとサミール・ベナーリという地元のライターふたりと同行している。
バザールから15キロのところにカルタゴの遺跡が立つ。カルタゴは、遠い過去には強力なローマに挑戦する力があった。私たちはカルタゴの戦士ハンニバル叙事詩について話し合った。
ローマは海上戦を予期していたのだが(二つの国は数百海キロ隔てられているのみだった)、ハンニバルは砂漠に勇敢に立ち向かい、巨大な一隊と共にジブラルタル海峡を渡り、スペインとフランスを行軍し、軍隊と象を携えてアルプスに登り、ローマ帝国を北から攻撃した。
ハンニバルは進路上の全ての敵を打ち負かし、そして突然、誰にも正確な理由はわからないが、ローマの前で止まり、絶好の機会にこれを攻撃しなかった。このとき躊躇したゆえに、カルタゴはローマの船によって地図を塗り替えられることとなった。

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私たちは美しい建物のそばを通り過ぎる。
1754年、ある男が兄弟を殺害した。彼らの父親は、殺された息子の思い出を生き続けさせるために学校を収容しようと、この宮殿を建てた。
そうすることで、殺された息子も記憶に残ることだろうと私は意見する。

「それがすべてではないのです。」とサミールは答える。「私たちの文化では、犯罪者は彼の犯罪を許した全ての人と、その責任を共有するのです。誰かが処刑されたとき、その人に武器を売った人も神の前で責任を負います。父親にとって、過ちだとみなしたことを訂正する唯一の方法は、悲劇を他人を助けられる何かに変化させることだったのです。つまり、罰に限定された復讐の代わりに学校を建てたことにより、2世紀以上に渡る指導と知恵の伝授が可能になったのです。」

古い壁の扉のひとつにランタンが掛かっている。ファシは、自分は良く知られたライターだとコメントする。彼はまだ認めてもらおうともがいているのに。:

「ここにアラブの最も有名な諺の起源があります。:「光は見知らぬ人だけを照らす。」

私は、イエスが同じことを言ったと答えた。「自分自身の国においては、誰も預言者でない。私たちは常に遠くから来るものに価値を置こうとしていて、周りにあるあらゆる美を認識することがない。」

私たちは、文化センターになっている古い宮殿に入る。ふたりの友人はその場所の物語を説明し始めたが、私の注意はピアノの音に完全にかき乱され、建物の迷路を通ってそれを辿り始めた。
男女がいる部屋に辿り着く。彼らは4本の手で「トルコ行進曲」を弾いていたが、没頭して世界に気が付いていない。
数年前に何か似たものを見たことを私は思い出した。ショッピングセンターにいたピアニスト。彼は自分の音楽に熱中し、大声で話したりラジオをつけて通りがかる人々には全く何の注意も払っていない。

だが、ここには私たち3人と2人のピアニストしかいない。ふたりの表情を私は見ることが出来る。:喜び、全く完全な喜び。
彼らは聴衆を感動させるためにそこにいるのではなく、それが自分たちの魂と会話するため神が与えてくれた贈り物だと感じているからそこにいるのだ。同じように、アダム、サミール、そしてパウロの魂もまた、お互いに話をすることになり、皆が人生の意味により近づいたと感じている。

私たちは1時間黙って聴いた。最後に私たちは拍手喝采した。そしてホテルに戻った時、私はそのランタンのことをしばらく考えていた。

そう、それはおそらく見知らぬ人だけを照らすのかも知れない。
しかし、私たちがこの広大な愛に取り付かれているときに、それがどうだというのか?

原文:http://paulocoelhoblog.com/2006/05/19/twenty-years-later-the-two-wise-men/