白い部屋

あなたと宇宙を泳ぐ

20年後:それがオデッサ! - パウロ・コエーリョのE-CARDSより

拙訳

20年後:それがオデッサ
2006/5/15
パウロ・コエーリョ

冬の最中のこと。ロシアのキャサリン女帝は、収穫されたばかりのオレンジの箱詰めをいくつか受け取る。それらは彼女の帝国の一部の遠く離れた港から着いたとのメモがある。「私たちの実力をご覧下さい。しかし、さらに成長するためにはあなた様の助けが必要でございます」。
感銘を受けたロシアの女帝は、この港がさらに発展するために莫大な資金を送る。

実際には、そのオレンジは黒海を挟んだ外国から持ち込まれたものだった。そのメモは、皇帝に嘘をついたわけではなかったが、完全に真実を告げたわけでもなかった。
しかし、そこへ上陸すると、私はすぐに理解するようになった。目的地を決めないと提案した90日間の巡礼を続けながら、街で最も頻繁に耳にしたのは「それがオデッサ!」という言葉だった。

この旅に出ようと決めた時、少なくとも週に一つは公的な約束を入れる必要があるとわかっていた。それは、途中で旅を辞め、相応しい時期の前にブラジルに戻るという誘惑に抵抗する助けになるだろう。今回の件では、政府の招待でウクライナに行き、チェルノブイリ原発事故の20周年記念フォーラムに出席することを私は承諾した。イベントは午後の半日だけで終わり、風に運ばれてウクライナに来た私は、さらに1週間そこに滞在しようと決めた。何をしたいか聞かれたとき、私は読者との「びっくり」ミーティングを手配していて、通常は2、3日間しか告知しないのだと説明した。それで、ミーティングはどこでするのですか?と聞かれ、私は答えた。

オデッサで」

皆はとても驚いているようだった。なぜオデッサなのか?
私はかつて、シュワブ財団(私はその役員だ)が選んだプロジェクトを持っているセルゲイ・コスチンに会った。ダボスで開催された会議で(財団は世界経済フォーラムと繋がりがある)、私は感銘を受けた。ウクライナ人が全く英語を話さずに、彼のプロジェクトを説明し、ダボスを頻繁に訪れるビジネスマンの関心を惹くことに成功したのだ。セルゲイは私に、是非彼の街を訪問するように、と強調した。
私は、衝動と兆候に導かれていたので、その時が来たのだと感じた。プエンテ・ラ・レイナで始まった伝統に従い、私は地元の書店を訪れ、抽選で選ばれた50人の読者のためのサイン会を組織するよう依頼した。

友人が飛行機を貸してくれた。着陸したとき、ロシアの私の代理人が、全て予定通りか確かめるためだけに、サイン会の招待状を見るよう私に求めた。私は彼女の目に怖れの色があるのを見た。

「日にちがない、場所も時間もない!」

「それがオデッサだ!」書店の主人は答えた。「招待状を受け取った人は、必要な情報を得るために3時間前に電話で問い合わせるでしょう。彼らがそれより先に気付いたら、私たちはたくさんの偽チケットを持つことになるでしょう。」

誰も現れないと私たちは感じるが、心配しないようにとナターシャに言う。私たちは期待していない。これはすべて冒険の一部なのだ。アイゼンシュタインの「戦艦ポチョムキン」の中で、最も強力なシーンの撮影場所となった階段を訪れる。
けれど、サイン会は成功した。「それがオデッサ!」なので、期待より遥かに多くの人々が現れた。書店の店主は、私の彫刻を彫りたがっている巨大な男に私を紹介した。

この類いの提案は既に受けたことがある。ポースをとるのに日にちがかかることはわかっていたし、翌日にはキエフに戻る計画だったので、私は決して受諾しなかった。しかし、書店の店主が言い張る。

「1時間だけですよ。それがオデッサ!」

その日は正教会の復活祭で、キリスト教徒にとっては重要な日だった。
彼を喜ばせるためだけに受け入れるべきだと私は感じる。現に私は1時間以上は滞在できず、キエフに戻る必要があったのだが。

私は何人かの友人を伴って彼のスタジオに行く。アレクサンダー・ペトロヴィッチトカレフ。それが彫刻家の名前だ。彼は一晩中教会で祈っていたと言う(正教会の慣習)。眠っていないにもかかわらず、彼は彫り始める。私は少し不安になる。こんな短時間では、彼はなにもできないだろう、と。彼はものすごく汗をかいて、手は一瞬たりとも止まることがなく、だが、彼の動きは正確で、魂のバレエのようだった。スタジオのあちこちにある作品に、私は彼の才能と素質を見る。彼の愛と、不可能に思えることを成し遂げる能力を、私は理解する。そこでもう一度私は思い出していた。何かを欲すれば、全宇宙が味方してくれる。

最後には、彫刻は出来ていた。だが、どうして私はそれほど驚かなくてはならなかったのか?それがオデッサ

P.S. 読者の皆様へ

旅の間、とても興味深い経験と共に私の魂を満たしていたものは、毎晩訪れる最高に摩訶不思議な瞬間のひとつ、それはこのブログに投稿されたコメントを読むときです。全てに返信することは出来ないけれど、私はあなた方に知ってもらいたい。この道を歩くとき、孤独ではないと知ることが、私にとって非常に重要だということを。
あなた方のご支援ならびに、今私の心に深く刻み込まれている言葉やアイディアにに大変感謝致します。

パウロ・コエーリョ

原文:http://paulocoelhoblog.com/2006/05/15/twenty-years-later-thats-odessa/