白い部屋

あなたと宇宙を泳ぐ

マスター、あなたのマスターは誰だったのですか? - パウロ・コエーリョのE-CARDSより

拙訳

 

マスター、あなたのマスターは誰だったのですか?
2018/6/21
パウロ・コエーリョ

偉大なスーフィーのマスターの一人であるジュネイドは亡くなるとき質問された。
彼の主な弟子が近くに来て尋ねた。
「マスター、あなたは私たちから離れようとしています。私たちの心に常にありながら、尋ねる勇気を出せなかった質問があります。
あなたのマスターは誰だったのですか?
あなたがご自分のマスターについて話すのを聞いたことがないので、弟子たちはこのことに大きな好奇心を持っていました。」

ジュネイドは目を開けて言った。
「それは答えるのがとても難しい質問になる。なぜなら私はほとんど全ての人から学んだからだ。全部の存在が私のマスターだった。私は人生で起こったすべての出来事から学んだ。私は起こったことすべてに感謝する。すべての学びから私は到達したのだから。」
ジュネイドは言った。
「あなたの好奇心を満足させるために、3つの実例をあげよう。」

●犬と托鉢椀
「かつて、私はとても喉が渇いていて、托鉢椀を持って川へ向かっていた。私が持っていた唯一の所有物だ。
川にたどり着くと、犬が突進して来て川に飛び込み、飲み始めた。私はしばらく眺め、托鉢椀を投げ捨てた。それは無駄だからだ。
犬はそれなしで飲める。私も川に飛び込み、飲みたいだけ飲んだ。川に飛び込んだため全身は冷たかった。しばらくの間川の中に座り、犬に感謝し、深い畏敬の念を持って彼の脚に触れた。なぜなら彼は私に教訓を教えてくれたからだ。
私はすべて、すべての所有物を失ったが、托鉢椀にある種の執着があった。それは美しい椀で、とても美しい曲線を持ち、誰かが盗むかもしれないと常に感じていた。夜でも、誰も奪えないよう枕代わりに頭の下に置いていた。それは私の最後の執着で、犬が助けてくれた。それは明白だった。:
犬が托鉢椀なしになんとか飲めるのなら、人間である私がなんとかできないわけがない。
あの犬はマスターのひとりだった。」

●忍耐強い泥棒
「第二に」彼は続けた。
「森で私は道に迷い、見つけることができた最寄りの村に到着したのは真夜中だった。全員がぐっすりと眠っていた。夜の寝床を与えてくれる、起きている人を見つけられたらと私は町中を見て回った。やっと一人の男を見つけ、私は彼に尋ねた。
『町で起きているのはあなたと私、ふたりだけのようですね。夜の寝床を与えてもらえませんか?』
その男は言った。
『ガウンからして、あなたはスーフィーの僧のようです…。』
スーフィーという言葉は『suf』という言葉に由来していて、それは羊毛(羊毛の衣服)を表す。スーフィー教徒は何世紀にも渡って羊毛の衣服を使ってきた。:それゆえ衣服を理由に彼らはスーフィー教徒と呼ばれる。
男は言った。
『あなたがスーフィーのお坊さんのようですので、家にお連れするのを少しきまり悪く感じます。本当にそうしたいのですが、私が誰なのかあなたにお伝えしなければなりません。私は泥棒です。泥棒の客人になっていただけるでしょうか?』

しばらく私はためらった。泥棒は言った。
『ほら、お話しして良かった。あなたはためらっているようだ。泥棒は望んでいるが、神秘家は泥棒の家に入るのを躊躇しているようだ。まるで神秘家が泥棒より弱いかのように。
事実、私はあなたを怖れているはずです。あなたは私を変えるかもしれません。あなたは私の人生全てを転換するかもしれません!あなたを招くことは危険を意味します。ですが私は怖れていません。
あなたを歓迎します。私の家にいらっしゃい。食べて、飲んで、寝て下さい。そしてお好きなだけ滞在して下さい。なぜなら私は一人暮らしで充分な稼ぎがあるからです。私はふたり分のお世話ができます。偉大なことをあなたとお喋りするのは本当に美しいことでしょう。しかし、あなたは躊躇しているように見えます。』
それで、私はそれが本当だとわかった。許してもらうよう頼み、泥棒の脚にふれ、私は言った。
『はい、私自身の存在の根はまだとても弱い。あなたは本当に強い人で、あなたの家に行きたいです。そして今夜だけでなく少し長めに滞在したい。私は自分をもっと強くしたいのです!』
泥棒は言った。
『いらっしゃい!』
彼はスーフィーの食事を世話し、飲み物を与え、寝る準備を手伝い、そして言った。
『そろそろ私は行きます。私は自分のことをしなければなりません。明日の朝早く戻ってきます。』
朝早く泥棒は戻ってきた。ジュネイドは尋ねた。
『うまくいきましたか?』
泥棒は言った。
『いいえ。今日はだめでしたが明日うまくいくでしょう。』
このことが30日間続いた。:毎晩泥棒は外出し、毎朝彼は手ぶらで戻って来た。しかし彼は決して残念がらず、失望せず、顔に失敗の色を浮かべることもなく、いつも幸せだった。彼は言った。
『問題ありません。私は最善を尽くしました。今日もまた何も見つけられなかったけれど、明日もやってみます。そして神のご意志があれば、今日それが起こらなかったら明日起こるのかもしれません。』
1ヶ月後私は出発した。そして何年もの間、極意を実現しようとしたがいつも失敗した。
しかし計画すべてを止めようと決める度、私は泥棒、彼の微笑み、そして彼の言ったことを思い出した。
『神のご意志があれば、今日起こらなかったことは明日起こるのかもしれません』」
ジュネイドは言った。
「私はその泥棒を最も偉大な私のマスターのうちの一人と思い出した。彼がいなかったら私は私でないだろう。」

●ろうそくを灯す
「第三は」彼は言った。
「私は小さな村に入った。小さな男の子が火のついたろうそくを運んでいた。彼は町の小さな寺院に向かっていて、明らかに夜そこに置くためのものだった。ジュネイドは尋ねた。
『光がどこからくるのか私に教えてもらえませんか?あなたはろうそくを灯したのだから見たはずです。光の源はなんですか?』

その少年は笑って言った。
『待ってください。』
そして少年はジュネイドの前でろうそくを吹き消した。そして彼は言った。
『あなたは光が消えるのを見ました。それがどこへ行ったか教えて頂けますか?もしあなたがそれがどこへ行ったかを教えてくれるなら、私はそれがどこから来たのかあなたに教えましょう。なぜならそれは同じ場所に行ったからです。それは源に戻ったのです。』
するとジュネイドは言った。
『私は偉大な哲学者に会った事があります。しかしそのような美しい表現をする人はいませんでした。』:それはその源そのものに戻った。すべては最後にその源に戻る。
もっと言えば、こどもは私自身の無知に気がつかせてくれた。私はこどもをからかおうとしたが、からかわれたのは私だった。彼は私が愚かな質問をしていることを示してくれた。『どこから光がやってくるのか?』は知的な質問ではない。
それはどこからも来ない、無から来る。そしてどこにも戻らない、無に戻る。」
ジュネイドは言った。
「私はこどもの脚に触れた。こどもは当惑した。彼は言った。
『なぜあなたは私の脚に触れているのですか?』だから私は言った。
『あなたは私のマスターです。あなたは私になにかを示してくれた。あなたは私に偉大な教訓と偉大な見識を与えてくれた。』」
「その時から」ジュネイドは言った。
「私は無について瞑想している。そしてゆっくりとゆっくりと私は無の中に入った。そして今、ろうそくが消える最後の瞬間が来た。光は消えるだろう。だが私は同じ源に行こうとしているのを知っている。私はその子を感謝の気持ちで思い出す。彼が私の前に立ち、ろうそくを吹き消すのを今も見ることができる。」
教訓のない状況はない。まったくない。

 

paulocoelhoblog.com 

youareme.hatenablog.com